近視の増加とその背景

こんにちは。クーパービジョンの近視マガジンです。
2回目の本日より、近視や子どもの目に関する情報を、目のプロフェッショナルである眼科医や視能訓練士の方々に解説していただきます。

本日は東邦大学医療センター大森病院にて、小児眼科・近視をご専門とされています松村沙衣子先生に、近年の近視の増加について、またその要因となっている背景を解説いただきます。


近視の増加と近視眼のリスク

近視とは、近くのものが見えて遠くが見えにくいことですが、これを医学的に少し難しく言うと、子供たちの成長に伴って眼球が楕円形に前後に伸び(目の長さが伸びる)、ピントの位置が前方にずれて遠くが見えにくくなる状態です。

現在、この近視は世界的な公衆衛生および社会経済上の重要な問題となっています1
特に、日本も含む東アジアの先進国は、近視と強度近視(-6.0D以上の強い近視)の割合が増加しており、世界の他の地域でも同じ傾向が示されています。世界人口における近視の割合の研究によると、2010年、近視の患者は約19億5,000万人(世界人口の約30%)、強度近視は2億7,700万人(世界人口の4.0%)であり、これを基に計算すると、2050年までに近視は47億5800万人(世界人口の約50%)、強度近視は9億3,800万人(世界人口の約10%)に増加すると予測されています2。なぜ問題とされるかというと、強度近視に至ると、網膜剥離や緑内障など、視力に影響する合併症のリスクが上がるからです。

日本でみる近視の子どもの有病率

我が国でも、令和3年度の学校保険統計調査にて裸眼視力1.0未満のお子さんの割合は小学校、中学校、高等学校でそれぞれ36.9%、60.3%、64.4%と報告され、年々右肩上がりの増加傾向を示しています3。1984年と2017年に行った調査を比較すると、1996年の7歳、12歳時の近視の割合はそれぞれ約15%、約60%であったが、2017年の本邦の報告では7歳で71.9%、12歳で94.6%と非常に高い割合であったことが報告されています4,5。特に最近は、スマートフォンやタブレットなどの普及による近業作業の増加にともない、生活の中で近くを見る作業の占める割合が多くなっており、こういった環境の変化が及ぼす影響は、小学生や中学生だけではなく、未就学児にも現れています。海外の報告では、未就学児(3~6歳)の近視有病率は過去10年間で2.3%から6.3%と増えているとされ、このように小さい年齢で近視を発症した場合は、成人になった際に強度近視になる危険性が高くなります6

近視が増えている背景と日常で取り組みたい予防法

近視は遺伝の要因と環境の要因が複雑に影響し進行します。そのため、ご両親が近視の場合はお子さんも近視の可能性が高くなります。これは変更ができない因子となりますが、変更可能な近視の危険因子としては、近くを見る時間が多いことと、外遊び時間が少ないことが挙げられます。コロナ禍により各国で学校閉鎖を含めたロックダウンが起きた影響で、子供達の外遊び時間の減少、デジタルデバイス時間の増加という生活環境の変化が生じており、近視が以前より進行しています7。デバイス使用に関しては、十分な視距離を保ち、適切な使用時間や休憩時間を入れて管理することが必要ですので、子供達自身が適切な使い方を習得するためにご家庭での指導も重要な一歩となるでしょう。世界保健機関WHOや諸外国の推奨では、デジタルデバイス使用時間は5歳未満では1時間以下、学童期青年期では2時間以下とされています。またご両親が近視であっても、屋外時間を増加させることにより、近視のリスクが減らせることができます。具体的には、近視の予防として1日2時間以上の屋外時間が推奨されています。

近視の原因になる目の長さの伸びは一般的に、7歳から10歳で急速に進行し、その後18歳辺りまでゆっくり進行していきます。このことからも幼児期や学童期からの予防、治療介入が重要であると考えられています8


松村 沙衣子 先生
所属:東邦大学医療センター大森病院 講師
専門:近視、小児眼科
2002年東邦大学医療センター大森病院入局後、2008年済生会横浜市東部病院眼科医長、2017年シンガポール国立眼センタークリニカルリサーチフェローを経て2023年に現職。


<参考文献>

  1. Matsumura S, Chen CY, Saw SM. Global Epidemiology of Myopia: Springer Singapore; 2020.
  2. Holden BA, Fricke TR, Wilson DA, et al. Global Prevalence of Myopia and High Myopia and Temporal Trends from 2000 through 2050. Ophthalmology 2016;123:1036-42.
  3. 文部科学省. 学校保健統計調査-令和3年度(速報値)の結果. https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa05/hoken/kekka/k_detail/1411711_00006.htm.
  4. Yotsukura E, Torii H, Inokuchi M, et al. Current Prevalence of Myopia and Association of Myopia With Environmental Factors Among Schoolchildren in Japan. JAMA ophthalmology 2019.
  5. Matsumura H, Hirai H. Prevalence of myopia and refractive changes in students from 3 to 17 years of age. Surv Ophthalmol 1999;44 Suppl 1:S109-15.
  6. Fan DS, Lai C, Lau HH, Cheung EY, Lam DS. Change in vision disorders among Hong Kong preschoolers in 10 years. Clin Exp Ophthalmol 2011;39:398-403.
  7. Xu L, Ma Y, Yuan J, et al. COVID-19 Quarantine Reveals That Behavioral Changes Have an Effect on Myopia Progression. Ophthalmology 2021;128:1652-4.
  8. Saw SM, Matsumura S, Hoang QV. Prevention and Management of Myopia and Myopic Pathology. Investigative ophthalmology & visual science 2019;60:488-99.
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